マインドフルネスにおける「意図(Intention)」── なぜ、私たちは実践するのか

はじめに ── 「なぜ実践するのか」という問い

マインドフルネスを継続して実践していると、ある日ふと「私はなぜ、この実践を続けているのだろう」という問いが立ち上がってくることがあります。忙しい日常のなかで時間を確保し、座布団の上に座り、呼吸に注意を向ける──その営みを支えているものは何でしょうか。

この問いに答えを与えてくれるのが、マインドフルネス研究において広く参照される「意図(Intention)」という概念です。意図は、しばしば「注意(Attention)」や「態度(Attitude)」の影に隠れがちですが、実践を方向づけ、深め、持続させる根の役割を担っています。本稿では、Shapiro et al.(2006)の IAAモデル と、Crane, Karunavira, & Griffith(2021)『Essential Resources for Mindfulness Teachers』に整理された知見を手がかりに、意図を持つことが実践者にとってどのような意味を持つのかを丁寧に考えていきます。


1. Shapiroの三つの基軸 ── IAAモデル

Shapiroらは2006年に発表した論文 “Mechanisms of Mindfulness” のなかで、マインドフルネスの本質を三つの相互に絡み合う基軸として整理しました。すなわち、意図(Intention)/注意(Attention)/態度(Attitude) です。Craneらはこのモデルについて、マインドフルネスを支える原理を理解するうえでの「有用な枠組み」として位置づけています。

Intention(意図):なぜ実践するのか。自身の価値観や志向性に根ざした「方向性」。

Attention(注意):いま、ここの経験に対して、意図的に向ける気づきの光。

Attitude(態度):その注意をどう向けるか──親しみ、好奇心、判断しないあり方など。

三者は別々に並ぶ要素ではなく、互いに浸透し合いながら一つの実践を形づくります。Craneらが指摘するように、「意図なき注意」「態度を伴わない気づき」というものは存在しません。判断しないという中立的な態度ですら、ひとつの態度です。意図はこの三角形の根に静かに宿り、実践全体に向きを与えています。


2. 意図には二つの層がある

Craneらは、意図には性質の異なる二つの層があると述べています。

(1)人生に対する広く深い意図 ── 価値観と志向性

「なぜ私はマインドフルネスを実践しているのか」という根本的な問いに関わる層です。情動の調整のため、自身の幸福(wellbeing)のため、より思いやりに満ちた関係性を生きるため、苦しみとの新しい関係を築くため──実践者一人ひとりにとって、その答えは異なります。これは「人生において自分は何を大切にしたいか」という価値観と直結する深い問いです。

(2)特定の実践セッションに対する具体的な意図

これに対して、もう一つの層は、これから始めようとする10分なり30分なりのプラクティスに対する、より具体的な意図です。「今日は呼吸に丁寧に戻ることを練習しよう」「忍耐を育てる時間としよう」「身体感覚との親しみを深めよう」──こうした意図が、その回の実践の質を静かに整えていきます。


3. 意図は「目標」ではない ── 羅針盤としての意図

ここで多くの実践者が誤解しがちな点に触れておきます。意図はしばしば「達成すべき目標」や「自分を測る尺度」と混同されますが、両者は質的に異なります。

Craneらは次のように明確に述べています──「意図とは、それに照らして自分を判定するゴールではなく、自分自身を支えるものである。意図とつながることは、コンパスを定め、舟の舵を進みたい方向に向けることに似ている」 と。

意図は「どこへ到達したか」を測るものではなく、「どちらを向いているか」を確かめるためのものです。実践のたびに方向を取り戻すための、静かな羅針盤です。

この区別は実践の継続にとって決定的に重要です。「集中できなかった」「心が散漫だった」と自分を責めるのではなく、「私は今日、なぜ座ろうとしたのだろう」と意図に立ち戻る。すると、実践は自己評価の場ではなく、何度でも方向を取り戻せる場へと変わっていきます。


4. 注意・態度との相互作用

意図は単独で機能するものではありません。注意・態度と絡み合いながら、実践の質を立ち上げていきます。

Killingworth & Gilbert(2010)の研究は、私たちの注意が「いま行っていること」から離れている時間が日常の およそ47%に及ぶ ことを示しました。訓練されない注意は、習慣的な反応や認知バイアス(Britton, 2016)に容易にハイジャックされていきます。意図は、この「漂う注意」に対して、その都度向きを与えます。

そして、意図は態度にも色を与えます。「自身を理解したい」「やさしさを育てたい」という意図のもとに座る時、注意は自然に親しみと好奇心を帯びます。一方、「直さなければ」「結果を出さなければ」という意図で座れば、注意はしばしば批判的な色合いを伴います。同じ「呼吸への注意」であっても、その手前にある意図が違えば、生まれてくる経験そのものが違ってくる のです。


5. 再認識(Reperceiving)への扉として

Shapiroらが論文のなかで提示したもう一つの重要な概念が、再認識(reperceiving) です。意図・注意・態度の三軸が共に養われていくとき、私たちは経験そのものに対して新しい視点を獲得していきます。

再認識とは、思考や感情の渦中に巻き込まれている状態から、一歩引いた地点でそれを「経験のひとつ」として眺められるようになる 気づきの脱中心化(decentering) のことです。Segal et al.(2013)やHayes et al.(2012)の文脈では、これは脱フュージョン(de-fusion)、目撃する気づき(witnessing)、経験を「保持する(holding)」あり方とも呼ばれます。

意図はこの再認識のプロセスを下から支えています。「今ここを離れずにいよう」「経験に対してやさしくあろう」という意図に繰り返し立ち戻ることそのものが、思考や感情に飲み込まれない地点を培っていくからです。


6. 実践者として、意図とどう向き合うか

では、実践者は意図とどのように向き合えばよいのでしょうか。三つの観点を提案します。

① 実践の前に、ひと呼吸の問いを置く

座る前、あるいは身体を動かす前に、ほんの数秒、「私は今日、なぜここに座ろうとしているのだろう」と問いかけてみる。答えは言葉にならなくてもかまいません。問いそのものが、その回の実践に向きを与えます。

② 「広い意図」と「狭い意図」を分けて意識する

人生レベルの広い意図(なぜマインドフルネスを生きるか)と、そのセッションだけの狭い意図(今日はどう座るか)は、別の階層にあります。両者を混同せず、ときに広く、ときに狭く、自分の意図を確かめ直す習慣が実践を成熟させていきます。

③ 意図を、自分を裁く道具にしない

意図に十分に応えられないと感じる日があっても、それは「失敗」ではありません。意図はもともと、達成のためではなく、何度でも方向を取り戻すために置かれているものです。意図を自分への鞭ではなく、迷ったときに帰ってこられる地点として大切に扱ってください。


おわりに

マインドフルネスは、注意のトレーニングに留まりません。意図によって方向づけられ、態度によって質を与えられ、注意によって今ここに錨を下ろす──この三つの軸が織り合うとき、実践は単なる集中の練習ではなく、自分自身の生き方そのものに通じる営みへと深まっていきます。

「私は何のために実践しているのか」。この問いを、答えを急がずに抱き続けてみてください。その問いを抱き続けること自体が、すでにひとつの実践であり、人生の羅針盤を静かに点検し続ける営みなのです。


参考文献

  • Shapiro, S. L., Carlson, L. E., Astin, J. A., & Freedman, B. (2006). Mechanisms of mindfulness. Journal of Clinical Psychology, 62(3), 373–386.
  • Crane, R. S., Karunavira, & Griffith, G. M. (Eds.). (2021). Essential Resources for Mindfulness Teachers. Routledge.
  • Kabat-Zinn, J. (2013). Full Catastrophe Living (Revised ed.). Bantam.
  • Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science, 330(6006), 932.
  • Segal, Z. V., Williams, J. M. G., & Teasdale, J. D. (2013). Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Depression (2nd ed.). Guilford Press.
  • Hayes, S. C., Strosahl, K. D., & Wilson, K. G. (2012). Acceptance and Commitment Therapy (2nd ed.). Guilford Press.
  • Britton, W. B. (2016). Scientific literacy as a foundational competency for teachers of mindfulness-based interventions. In D. McCown et al. (Eds.), Resources for Teaching Mindfulness. Springer.

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