【レポート】マインドフルネス認知療法(MBCT)入門公開講座Dr.Andrea

2020年7月2日にオンラインで行われた、カナダの精神科医、British Columbia大学Associate Professorである、Andrea Grabovac博士によるマインドフルネス認知療法(Mindfulness-Based Cognitive Therapy / MBCT)の公開講座です。
※なお、下記はInternational Mindfulness Center Japan担当者が概訳したものです。また、スライドはAndrea博士の英文バージョンを、事務局で和訳したものです。

Part1

冒頭、主催であるInternational Mindfulness Center Japan代表の井上清子より、Andrea氏について紹介を行った後、セッションが開始されました。

Andrea:今日はこの場に皆さんとご一緒できて大変うれしく思います。そして、MBCTについて皆さんとお話いただく場にお招きいただいた井上さん、International Mindfulness Center Japanに感謝したいと思います。
まずお聞きしたいと思いますが、この中で、個人的にマインドフルネスの練習に取り組んでいる方はどのくらいいらっしゃいますか?(挙手してもらう)素晴らしいですね。それでは、医療関係の方、心理職の方はどのくらいいらっしゃいますか。ありがとうございます。
今日のセッションが、ご自分の練習、そして専門の仕事の両方にお役にたてばと思います。

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まず、MBCTとは何か、マインドフルネスとは、という話の後に簡単な瞑想の練習を実際にやってみたいと思います。それから、MBCTの8週間コースで行われることを説明して、インクワイアリーと呼ばれるものについても説明をします。インクワイアリーというのは、グループでのディスカッションを通じて、瞑想の体験について深く掘り下げていく方法です。そして、最後に、簡単にMBCTのトレーニングについてお話します。トレーニングの一番最初のステップは、8週間のMBCTコースを、グループの一員として自分自身で受講することです。
質疑応答の時間も最後に設けたいと思います。事前に頂いているご質問のいくつかについては、スライドを用いた説明のなかで都度お答えしていきたいと思います。

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この写真は、ブリティッシュコロンビアの風景です。ここは、私が、医療従事者向けに5日間のMBCTのトレーニングを行う場所の一つです。とても美しい場所です。コロナウィルスが落ち着いたら、皆さんにもぜひお越しいただければと思います。

マインドフルネス認知療法は8週間のコースで、鬱の再発予防のために開発されました。このプログラムは、3人の認知科学者である、Zindel Segal、Mark Williams、JohnTeasdaleによって開発されました。再発についての認知理論に基づいています。ちょっとした気分の落ち込みによって起こる思考の変化のあり方が、大きな鬱のプロセスを引き起こすという仮説を設定しました。注意と認知についてのあるスキルをトレーニングすることによってMBCTは思考の反芻がエスカレートすることを止め、そのことが鬱の再発を避ける助けになります。

私が最初にMBCTを学んだときに、とても説得力があると感じたことは、その3人がマインドフルネスを用いてセラピーを創ろうとしたわけではなかったということです。彼らは、基本的な認知科学の知見からスタートしました。そして、結果的に、マインドフルネスのようなものになったのです。彼らは、これを弁証法的行動療法(DBT)の開発者であるLinehan博士に話したところ、「瞑想を再発明(reinvent)しましたね、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)を開発したJon Kabat Zinnのところに話に行くべきですよ」と言われました。これがMBCTが生まれた経緯です。

MBCTはグループに対しても、一人向けでも行うことができるプログラムです。8回のセッションで構成されており、グループ向けだと1回あたり2時間、一人向けだと1時間で行います。研究によると、一人向けでもグルー向けと同じくらい効果があるとされています。一人向けの場合、よりその個人に合わせた内容にすることができます。一方、グループで行うと、グループとしてのエネルギーが生じ、お互いの体験について聞くことができるというメリットがあります。

参加者は、一日一時間、練習に取り組むことが期待されています。
それぞれのセッションは、同じような構成になっています。まず25-40分程度の瞑想の練習を行い、その後、グループでその練習の体験について話し合います。これはインクワイアリーと呼ばれます。

今日は、実際に練習を行い、その後に、8週間のプログラムを通じてマインドフルネスのスキルがどのようにトレーニングされるのかについてより良く理解していただくために、8回のセッションについて見ていきたいと思います。

ここで事前にいただいていた質問に関して触れたいと思います。今はコロナウィルスの影響もあってオンラインでMBCTが提供されることもありますが、そのことについてです。研究によると、オンラインコースも、実際の対面の場合と同等の効果があるとわかっています。そして、オンラインで行われる1日のサイレント・リトリートについても同様です。行う際は、安全性の観点から、参加者は自分がコンタクトできるお医者さんや心理職の方がいること、もしくはコースを指導をする人がセッションの間には必要に応じて参加者とやり取りができるようにしておくことが大事なことです。これは、オンラインで行う場合は、面と向かって行う時と同じようにはチェックが行き届きづらいからです。

さて、それでは、マインドフルネスという言葉の定義から見ていきましょう。これにはたくさんの定義があるからです。

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例えば、この写真のどちらの女性のほうがマインドフルでしょうか。左でしょうか、もしくは右でしょうか。両方かもしれませんし、片方かもしれません。これは答えるのが難しい質問です。というのも、見るだけではわからないからです。左の人が穏やかな状態にあるように思えるかもしれませんが、マインドフルネスの目的は穏やかさを得ることである、というのはよくある誤解です。医療の現場において最も役に立つと私が考えるマインドフルネスの定義は、今この瞬間の体験に対する注意、受容、平静さを伴う観察とするものです。受容とは、体験を受け入れることで、抵抗しないことです。

それから次のことはメモを取っていただくと良いかもしれません。平静さ(equanimity)についてですが、これは複雑なコンセプトです。マインドフルネスを実践する人の多くは、これを自分自身の個人的な体験として認識します。私が役に立つと考える定義は、平静さ(equanimity)とは、感覚や思考が心地よいものでも、不快なものでも、そのどちらでもない場合でも、自動反応をせず、等しく客観的な興味を体験に向けることです。うつ状態にある人を始め、たまに見られる誤解は、マインドフルネスは、自分の感じ方を変えようとするために用いられるものである、というものです。マインドフルネスは、自分の直面している体験を変える方法ではありません。そうではなく、自分の体験に対する関わり方をシフトする方法なのです。思考が起きないようにするということではありません。それはマインドフルネスプログラムで実践する瞑想ではありません。マインドフルネスは宗教的実践として利用されるものでもありません。参加者に対して、何かを信じてくださいというようなものでもありません。そうではなく、自らの体験についてあるやり方で注意深く観察していただくものです。

何人かの方から、MBCTと認知行動療法との違いについてご質問いただいていました。大きな違いの一つは、MBCTは思考の内容よりもそのプロセスに焦点をあてていることです。MBCTでは思考の内容を変えようとすることはありません。認知行動療法では、例えば、歪んだ思考を正したり変えたりしようとすることがあります。

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それから、MBCTは認知行動療法のセルフモニタリングとどう違うのでしょうか、というご質問もいただいていました。MBCTでも、紙やペンを用いてセルフモニタリングを行うエクササイズもあるのですが、基本的に、思考は、固定的で自分の実態を表しているものと言うよりかは、精神的な感覚、生成物に過ぎないものであるということを学びます。それからMBCTとMBSR(マインドフルネスストレス低減法)の違いについてもご質問を頂いていました。MBSRは、同じく8週間のプログラムで、Jon Kabat Zinnにより、ストレスの低減や慢性的な痛みのために開発されました。MBSRは、より身体へ注意を向けるトレーニングになっており、ヨガやマインドフルムーブメント、マインドフルウォーキングなどを行います。また、MBSRでは、慈悲(loving kindness)の練習にも重きをおいています。MBCTの開発者たちも、慈悲の練習をプログラムに取り入れるか長い間議論をしました。最終的に、慈悲の練習は、慢性的なうつを患う人たちにとっては、再発の引き金になったり、困難を引き起こすことになる可能性があるという結論に達しました。そのため、MBCTにおいては、やさしさ(kindness)やいたわり(caring)の態度は、目立たないように取り入れられました。

さて、これから、脳科学の観点から、瞑想がどのような効果を持つかをスライドで見ていきたいと思います。

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脳のレベルでは、MBCTは部分的にデフォルト・モード・ネットワークの働きを低下させる働きをします。デフォルト・モード・ネットワークは脳のなかで機能しているネットワークの一つで、「私」という概念に大きな役割を持っています。事実、認知科学者の中には、このスライドの真中にある後帯状皮質が、神経科学上の「自己の座」である、という人もいます。
Nixonらのグループによる2014年からの研究があります。グループは、過去にうつをわずらって回復した患者たちを、コントロールグループと比較しました。グラフの縦軸はデフォルト・モード・ネットワークの活性化度合い、どのくらい自分に関する思考が湧いているかを示したものです。

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実験で、参加者は、算数の問題を集中して解くように言われました。見てわかることは、過去にうつを経験した患者たちは、他のことに集中しなければならない時に、デフォルト・モード・ネットワークが依然として活発で、自分に関する考えが多く頭に浮かんできたのでした。多くの研究によって、瞑想の最中と、瞑想の間は、デフォルト・モード・ネットワークの活性化度合いが低下することが示されました。

また、Brewerの研究によると、MBCTで用いられる選択しない注意(choiceless awareness)、MBSRの慈悲の瞑想(loving kindness)、集中する瞑想といった瞑想の種類に関わらず、これらの瞑想の練習は全てデフォルト・モード・ネットワークを低下させ、自分に関する思考を減少させました。

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また、皆さんの中でも多くの人がご存知かと思いますが、マインドフルをベースとした処置による脳神経科学上の有益な変化が、数多く確認されています。

Part2

このスライドは、MBCTのトレーニングを受ける人が知っておくべきスキルについてまとめたものです。

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MBCTは、一つの対象に対して注意を保つトレーニングを行います。たとえば、呼吸の感覚などです。ボディスキャンは、微細な身体的な感覚を養うためのものです。これを内受容的気づき(interoceptive awareness)と呼びます。思考の内容は個人に属するものとはされません。自らが体験している認知のエラーの種類に関わらず、そのことを信じることはありません。思考は、過ぎ去っていくメンタルな感覚である、と理解します。そして最も大事なことは、不快なものであったとしても、平静さ(equanimity)を伴って体験を受け入れ、許すことです。これらのマインドフルネスのスキルを用いることにより、悲しみに抵抗することにより生じる二次的な感情や余分な苦しみがなくなり、最初に起きた悲しみをうまく扱うことができるようになります。

MBCTのスキルは、医療の現場において、将来的なうつの再発予防について、抗うつ薬の維持投与と同等の効果があることが実証されました。よって、うつ再発予防のために抗うつ薬を飲みたくない人にとっては、一つの選択肢になりえます。また、グループで行う認知行動療法と同等の効果も認められました。カナダでは、うつの処置のガイドラインにおいて、1次治療の維持療法として推奨されています。また、急性うつの2次治療としても推奨されています。イギリスでは、NICEのガイドラインで、MBCTが3回以上のうつを経験した人向けの心理療法として推奨されています。

MBCTは他にも依存症にも用いられており、それはMindfulness Based Relapse Preventionというプログラムになっています。精神病の治療においても研究され、用いられています。ここ、バンクーバーでは、外来患者向けのMBCTも始めました。実際の日常生活においてとても大変で、困難で、気持ちがこんがらがってしまった外来の精神患者に効くかどうかを見極めたいと思っています。

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これはランダム化比較試験ではありませんが、MBCTを受講した250名の患者のデータを集めたものです。コースを始めた時点では、ベックの尺度で22ポイントと、うつの程度は中くらいでした。実際に、急性のうつの人がいたのです。そして、8週間終わった時点が赤いグラフ、6ヶ月後が緑のグラフです。うつのレベルはとても穏やかか、うつが無くなるところまで下がりました。

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私達は、マインドフルネスについての質問(The Five Facet Mindfulness Questionnaire)を用いて、マインドフルネスのレベルの計測も行いました。統計的に、コースを始めた時から8週間後にかけて、明らかな向上が見られました。そして、驚いたことに、コースを修了してから6ヶ月たった時点でも、マインドフルネスの力が向上し続けていたのです。

(瞑想練習)
それでは、いまから数分間、マインドフルネスの実践をおこなって見ましょう。
よろしければ、心地よい姿勢で座ってください。(椅子に座っている場合)足を床に置き、腰の幅より広く広げて、安定して体を支えてください。可能であれば椅子の背もたれを使わず、背中を伸ばします。目は閉じて頂いても結構ですし、まぶたを開けたまま力を抜いてそのあたりを眺めておくことでも結構です。鼻や上唇のあたりで呼吸の感覚を感じていきます。まずは注意がここに向いていくことをそのままにしておきます。呼吸が入ってきて、また出ていくままにさせておきます。呼吸を長くしたり、短くしたりコントロールする必要はありません。また、深い呼吸、浅い呼吸といったことも、呼吸が生じるままにしておきます。入ってくる空気の冷たさや、出ていく空気の暖かさを感じるかもしれません。空気が上唇や鼻にふれる感覚に気づきます。鼻や鼻腔の小さい範囲の感覚から、心の動きを感じるかもしれません。そうして、思考に気づく準備ができます。思考が生じるたびに、その思考の中には有益な情報も含まれているかもしれませんが、それは思考に過ぎない、メンタルな感覚である、ということに気づきましょう。

次のステップは、思考に自動的に反応せず、思考と一体化しないようにすることです。思考に対し、ありがとう、でもいまは遠慮しておきます、と言っても良いかもしれません。
3つのめのステップは、思考から緊張を解き放ち、意図を向けると決めていたものに注意を戻すことです。いまであれば、鼻の部分で感じる呼吸の感覚です。生じた思考が、説得力があって興味深いものであっても、2秒以内に、あえてその思考から意識を解き放ち、呼吸の感覚に注意を戻します。

あと1分間、ご自分で練習を続けてみましょう。
意識が呼吸、体の感覚、音などに向くたび、そのことをあまり自分自身のことだと考えないようにして、がっかりしたり打ちのめされたりしないようにしましょう。これは認知の機能をトレーニングする機会であって、これこそが私達が瞑想の練習を行う理由です。
ですから、腹をたてること無く、体や心の感覚に気づき、そこから注意を離して、鼻の入り口の温度、動きなど、生じている感覚に注意をもっていきます。あと何回か呼吸をしたら、手や足を軽く動かして、目を閉じている方は目を開けてください。(練習終わり)
一緒に練習に取り組んでいただきありがとうございました。

それでは、これから、MBCTの8週間について、どのようにトレーニングを行っていくかを見ていきたいと思います。先程見たように、またこれからも出てきますが、それぞれのセッションは、同じような構成になっています。

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マインドフルネスのプログラムは、MBCTの他にも様々なタイプのものがありますが、そのプログラムの如何に関わらず、受講者が学ぶことは同じスキルです。すなわち、無常さ(impermanence)、体験が生じては過ぎ去っていくことに注意を向け、幸せな状況を生み出しそれを永久に保ち続けることはできないために体験においては常に不満足さが伴うこと、そして独立して存在する「私」というものは存在しないということに気づくことです。受講者は、歯を磨くといった日常の活動、ボディスキャン、マインドフルムーブメント、マインドフルウォーキング、これらのあらゆる練習を通じて、先程言ったような現象に注意を向けることになります。

セッション1では、自分自身が自動操縦状態に陥っていることを観察するところから始めます。今ここに存在しない状態で人生を送る、ということが如何にたやすく生じるかということを知ります。ここではレーズンエクササイズを行います。一人一つずつレーズが配られるのですが、エクササイズの前に無意識のうちにレーズンを食べてしまう人すらいます。また、シャワーを浴びるときに、自分がもう髪を洗ったかどうかさえ覚えていない、というようなことが話題にのぼることもあります。

セッション2では、「体験について考えること」と「マインドフルに、直接、体験すること」の違いを見ていきます。ここでは、マインドフルネスの練習の妨げになる5つのことについて取り上げます。すなわち、執着(attachment)、嫌悪(aversion)、眠気(sleepiness)、落ち着きの無さ(agitation)、疑念(doubt)です。

セッション3では、早くも40分間の座る瞑想を一緒に行います。セッション2では、心地よい感覚について観察し、セッション3では不快な出来事について、不快な感覚への自動反応が起きていることをホームワークで観察することになります。それらの中で、自分に備わっている、心地よさを求める感覚を探索します。

これが、セッション4を行うための準備になります。このセッションはMBCTにおいて最も大事なセッションの一つです。ここでは、私達の自動反応の本質について深く理解をしていきます。私達の深層にプログラムされた、不快さに対する嫌悪と、快に対する執着についてです。40分間の座る瞑想で、選択しない注意(choiceless awareness)によって快と不快の両方の感覚が生じ、過ぎ去っていくことを眺めます。

セッション5では、受容(acceptance)と平静さ(equanimity)について取り組みます。

セッション6では、思考は、精神的な感覚に過ぎない、ということをより確実に理解していきます。胆嚢が胆汁を作り、皮膚が皮膚の細胞を作るように、脳が思考を作ります。臓器が体に必要なものをつくるように、脳という臓器が思考を作ります。何も特別なものではありません。

セッション7では、出来事に対してこれまでの癖に従って自動反応をする代わりに、自分自身をいたわるような上手な対応の仕方をするにはどうしたらよいか、とういことを探ります。

そして、最後にセッション8で、全体を振り返り、練習を継続していくためにどうしたらよいかということを扱います。

Part3

インクワイアリーを通じて参加者の体験を聞き、それから学ぶことができます。参加者が、瞑想中にどのような状態にあり、何を行っているのかということを知る必要があります。40分間の瞑想時間中に実際に何を行っているのか。反芻する思考に囚われ続けているのか。もしくは、いつもの自動反応パターンから距離を置くことができていたり、それに囚われずに体験を観察することができていたりするのか。これによって、どのような進め方をするかについて修正が可能となり、瞑想練習の方法についてこのように調整してくださいという具体的なフィードバックを参加者に与えることができるようになります。

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今日のMBCTについての紹介セッションで、これまで見てきた大事なスキルを8週間のコースを通じてトレーニングをしていくこと、そしてこれらのスキルがどのように精神の健康の助けになるか、ということについて理解をしていただければ嬉しく思います。

皆さんのなかで臨床の専門家の方々は、MBCTのトレーニングのほうにより興味をお持ちかもしれません。先程申し上げたように、最初に取るべきステップの一つは、ご自身で8週間コースに参加し、自分の肌で、自分の心で、参加者がこのプログラムを通じてどのような体験をしているかということを経験することです。このプレゼンテーションの中ではトレーニングについてこれ以上は触れませんが、後ほど質疑応答の時間もありますので、ご質問あればそちらでお答えいたします。また、トレーニングプログラムでは、セラピストとしてのスキルが標準化されているということを申し添えておきます。MBCTを教えるようになるためのスキルについてのトレーニングは、世界中で様々なプログラムとして提供されています。International Mindfulness Center Japanのウェブサイトにも情報が掲載されています。

最初にお尋ねした際に、何人かの方々は毎日瞑想練習を行っている、また何人かの方はこれから練習を行っていこうと思っている、ということでした。スライドのほうは後ほどご覧いただけるようにしたいと思いますが、その中にこの練習についても何枚か入れています。練習を行う方法についてのスライドの後に、マインドフルネスを日常に取り入れるための練習のコツも載せています。私が強くおすすめするのは、どのようなスタイルの瞑想を行うにせよ、同時に、心理学的な基礎を理解しておくことです。それによって、個人的な実践がより進歩するからです。
質疑応答に移る前に最後にお見せしたいスライドは、日常の生活の中でマインドフルネスの練習を行うことができる、ということについてのものです。日常生活の中で感じるちょっとした不満を取り除こうとするのでなく、体験に抵抗することなく平静さ(equanimity)を持って自分自身をその不満の中にいるままにさせることです。

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ご静聴ありがとうございました。それでは、質疑応答の時間に移りたいと思います。

以下、Q.井上(参加者から) A.Andrea

Q.精神科医がMBCTの講師になる意味とは何でしょうか。精神科医の仕事にMBCTはどのように役に立ちますか。

A. 私自身にとっては、MBCTやその他のマインドフルネスプログラムのバックグラウンドにある心理的な、仏教心理的なフレームワークを理解することは、患者たちが言うことや苦しみを理解することの役に立ちます。
自分が外来患者と接するときには、MBCTを用いて、人間の苦しみの根源を取り扱うことで、大きな変化が生じていると感じています。急性の患者の場合、専門家として個人的には、患者が急性の苦しみにある時に、共にあることの役に立ちます。マインドフルネスと平静さ(equanimity)の実践により、私は患者の苦しみに対し、個人的に巻き込まれることなく、かつ十分に共にあることができます。

Q.MBCTはうつ以外にも、たとえば統合失調症や不安障害、その他のものに適用することができますか。

A. はい。この10年間、うつ再発予防のためのMBCTは、改良され、強迫性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、摂食障害といった、考えうる多くの症状に用いられるようになりました。これらは、病院で用いるために治療マニュアル化されています。

Q.先程の話に、瞑想するにあたって、心理的なことを理解して行うことをおすすめするとのことでした、これはどういうことでしょか。

A. 一つの心理モデルの例は、ヴィッパーサナ瞑想に基づくCo-emergency Model of Reinforcementです。井上さんに秋にお招き頂いている(事務局注:Study Group10月)ので、その際にこの心理モデルについてはお話したいと思いますが、Google検索していただければ概要が書かれたCayoun氏の論文がいくつか見つかると思います。
(事務局注:https://www.researchgate.net/publication/282660341_Integrating_Western_Science_and_Eastern_Wisdom
この理論は、不快な感覚に対する習慣的な自動反応が、どのように苦しみを増すか、ということについて述べているものです。

Q.快、不快を手放すということは、自分の気持に蓋をするようにも思えます。そのバランスはどうしたら良いでしょうか。心と身体の繋がりは強いと思います。

A. 無関心(detachment)と平静さ(equanimity)の関係について、とても重要な質問をありがとうございます。無関心さ、または、何も感じないことは、平静さの近くにいる敵である、と言われることもあります。逆説的ですが、快や不快を、抵抗せずに感じるままにさせる、ということです。それは実際には感情や感情の幅を広げることになります。例えば、より大きな喜び、悲しみの両方に対して、圧倒されることなく、それらとともにあることのできる力です。このようにして、平静さのトレーニングが患者の耐性と感情制御を高めるのです。
マインドフルネスの力があったとしても、足の指を強くぶつけると、やはり痛みます。ただ、「私が」「私の」「私を」といった感情的な苦しみを通じて痛みを増幅することはしません。身体的な痛みよりも感情的な痛みがあると怒りが収まらないのですが、マインドフルネスの力があると、そのことを繰り返し思い出して増幅させる事はなく、その痛みは消え去っていきます。なぜなら、ここではその痛みを自分のものとするのでないからですが、その痛み自体は知覚します。

Q.最後の質問です。MBCTの研究について、最新の情報を得るにはどうしたら良いでしょうか。

A.MBCTに特化したウェブサイトがあります。イギリスのMBCTトレーニングセンターのものなどです。もしくは、Googleの検索やPubMedを見るのが良いかと思います。

井上:Andrea先生、本日はカナダの早朝の時間からありがとうございました。また10月にStudy Groupでお話いただけることを楽しみにしています。